1-2 糖鎖研究の難しさ

糖鎖は生体物質の中でも非常に重要な役割を果たしていることが前の項目で分かったと思います。しかし、分子細胞生物学の分野において、糖鎖の研究はまだあまり進んでおらず、発展中の分野です。それは糖鎖の研究が困難な理由が主に二つ存在するからです。

●糖鎖は非常に構造が複雑だから

2章で糖鎖の構造についての説明があるので、詳しい糖鎖の構造の説明はここでは省略します。糖鎖は複数の単糖が結合して構成されています。また、他にも糖以外の物質も結合して構成されている糖鎖も存在します。細胞の表面に存在する糖鎖は脂質やタンパク質が修飾しています。高校生で勉強する単糖はグルコース、フルクトース、ガラクトース、リボース、デオキシリボースぐらいでしょう。しかし、実際に存在する糖はこの5種類よりも多く存在します。また、単糖は多くの結合部位を持ちます。その例を高校生で勉強するであろう「アミロース」と「アミロペクチン」の違いを用いて説明します。アミロースもアミロペクチンも同じ6個の炭素を持つグルコースだけでできていますが、性質が異なります。アミロースは全て1番目の炭素と4番目の炭素が持つOH基の間で脱水が起きて、直線の構造をとります。アミロペクチンは1番目の炭素と6番目の炭素が持つOH基の間でも脱水が起きて、枝分かれの構造をとります。このように、単糖は複数の結合部位を持つため、様々な構造をとることができます。さらに、単糖が他の物質と結合して糖鎖を構成する際、様々な結合様式をとったり、相互作用を持ったりします。なので、それらの点でも糖鎖は複雑な構造をとります。このように、糖鎖はDNA、タンパク質、脂質と比べて構造が非常に複雑なのです。

 

●糖鎖の修飾の組み合わせを解読する方法がまだあまりないから

DNA(核酸)やタンパク質の構造はゲノムに組み込まれていますが、糖鎖は組み込まれていません。また、糖鎖は他の生体物質と異なり、生物によって同じ糖鎖でも異なる構造をとったりします。そして、先ほど説明した通り非常に構造が複雑です。これらの理由により、糖鎖の修飾の組み合わせを解読する方法はまだあまりありません。糖鎖の構造は細胞の代謝、細胞の種類、発生時期、栄養状態、その他、細胞の微小環境により決定される様々な因子や確率的因子を反映していて、変化も起こりやすいのです。また、糖鎖を研究するためには糖鎖を分解しなければいけないため、細胞表面に存在する糖鎖の修飾の変化などを研究することは現段階の技術では不可能です。質量分析機という装置を使う場合も糖鎖を分解するため糖鎖全体を見ることはできません。他にも、糖鎖と結合する「レクチン」という物質を利用して、糖鎖構造を推定することもできますが、レクチンは酵素とは異なり特定の糖だけと結合しないので、推定しかできません。ノックアウトマウスというマウスを育てて機能を解析する方法もありますが、時間がかかるため、これも画期的な方法ではありません。

 

以上が糖鎖研究が難しい理由の二つです。現在容易に解析されているDNAも解析技術が発展していない時代において、研究が中々難しく発展していない分野でした。しかし、DNAの研究は急速に進み現在発展を遂げています、それは多くの研究者が協力して力を注ぎ、お金をかけて研究をしたからです。糖鎖の研究も多くの研究者が力を注ぎ、莫大なお金をかけてでも、研究することができたならば、他の生体物質と比べて構造が複雑な糖鎖でも、解析の方法や研究は発展していくことでしょう。糖鎖研究が進むと、どれほど私たちの生活に貢献できるかを次の項目から説明していきます。